2012年4月26日木曜日

020820ビジネス知識源:特別号:中世的世界のあとはルネサンス [ビジネス知識源:インターネット時代の経営の成功原理と原則] - メルマ!


※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。
<<あなたと、チームの、知識とスキルのブラッシュアップを>>

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      2002年8月19日分:Vol. 112

             <中世的世界のあとはルネサンス>

ビジネス知識源:良質な経営・IT・ビジネス知識の提供を目標に
                                 (読者数: 28.011名)
   Systems Research Ltd. chief consultant吉田繁治
著者へのひとことメール⇒   yoshidbr/>申込・解除・バックナンバー⇒ 
    ※100編余のバックナンバーを掲載しています。

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� ��んにちは、吉田繁治です。先週は1日、今週は2日遅れの配信に
なっていることを、深くお詫びします。今週の作業で追いつきます。

配信した<サム・ウォルトンの遺言(1)(2)(3)>では、ウ
ォルマートの創業者サム・ウォルトンの、自伝的回顧:『Sam Walton
 Made in America(邦訳はロープライスエブリディ)』を読みな
がら、彼がどんなことを考えていたのかを、彼と対話するつもりで
考察してきました。

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1.Think One Store at a Time(一度に多数の店舗を考えるのでは
なく、一店のことを集中して考えよ)

2.Communicate ,Communicate, Communicate(全部の情報を知らせ
て話し合い、話し合い、話し合い続けよ)

3.Keep Your Ea r on the Ground(地面に耳を接するように、現場
の生の声に耳を澄まし、現場の地鳴りを聞け)

4.Push Responsibility ---and Authority----Down(組織が大きく
なるにつれ、責任と権限を現場に、組織の下の階層に与え続けよ)

5.Force Ideas to Bubble Up(現場のアイデアを、沸騰した水中の
泡が上にあがるように、「強いて」上にあがらせよ)

6.Stay Lean, Fight Bureaucracy(効果を上げるに必要なコストし
か掛けない身軽な組織を保ち、官僚主義の煩雑な手続きを撲滅する
ために戦え)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

上記4.5.6.についての考察は、また、まとめて行います。

本稿では、時事問題を素材に、「会社」の生命になる部分を考察し
ます。技術の問題ではない。 精神、エスプリ(esprit)に関わる部
分です。

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     <Vol.112 中世的世界のあとはルネサンス>

【目次】

 1.感想:腐敗構造の原因
 2.会社と個人
 3.タテ社会の人間関係
 4.人間関係の崩壊
 5.ウチとソト
 6.行きついて急展開

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■1.感想:腐敗構造の原因

輸入牛肉の産地偽装の雪印食品事件に続き、日本ハムの類似の事件
が起こっています。先月末、ある会合で、偶然、食肉輸入の現場の
仕事をしていたことがある人に会った。まさに現場を知っていた。

案の定「ああした事件が、次々に発覚するのは、当然でしょう 。ま
だ、私が知っているだけでもいっぱいあります。」と言っていた。
暗澹としますが驚かなかった。読者の方の多くも、同じ気分でしょ
う。

▼リスクマネジメントのまずさではない

企業の危機管理(リスク・マネジメント)の不備が言われますが、
問題の筋が違います。

危機が起こったときの処理の巧拙ではなく、外部に漏れ、それが「
報道」されれば、一瞬で、企業の命取りになるようなことが、危機
意識がなく現場で行われている。

「一瞬でブランドイメージが裏返り、企業崩壊の危機につながる」
ことは、情報化時代の新しい現象です。

8月20日(火)の朝日新聞に、雪印食品の(元)ミート営業調達
部長の証言が出ています。以下に、記事を要約します。目的は、日
� �の「会社」というものを、この機会に改めて考えるためです。

▼要約

1.経緯:
雪印食品の元部長は、昨年10月下旬、元専務に対し、業界内で輸
入牛肉を国産牛肉と偽って、(狂牛病対策のための200億円の買
取り処分制度を使って)買取り申請する動きがあることを報告し、
「うちも参加したい」と伝えた。
元専務は、「やり方は任せる」と了承したという。

1.モチーフ:
輸入牛肉の国産牛肉への偽装は、膨れる在庫を減らし「会社に損を
させないため」にやったと元部長は証言。

2.上司の承認:
元専務が了解しているから、問題になったとき抑えてくれると思っ
ていた。しかし事件の発覚後、頼みにした上司の反応は冷ややかだ
った。「お前のおかげでクビになるわ」 ・・・専務から開口一番、
こう言われた。

3.危機対策:
報道後、社内に設けられた調査委員会の調査で、事件は、元部長や
関西、関東のミートセンター長ら5人の責任となされ、会社ぐるみ
でないことが強調されていた。

4.世の中:
「そういうことで会社が残るのであれば、やむをえない」、公表さ
れた結果についてそう思い、役員らが責任を問われないことについ
て「世の中そんなものかもしれない」と受け入れた。納得はしなか
ったが、「会社に愛着があった」

5.会社の解散:
雪印食品が(02年)4月限りで解散する話を耳にした。「このま
まではすべてが終わってしまう」と思い、役員の(産地書き換えへ
の)関与について明かし始めた。

6.裏切り:
元専務 と元常務が、偽装について「共謀したことはない」と起訴事
実を全面的に否認していることについて、元部長は「敵前逃亡みた
いなことではないかと思う」と述べた。

読めばやりきれない気分になります。ちょうど1年前の8月、こう
したことに関するテーマは、官僚の行動原理を解いた「共同体の二
重規範」でとりあげたことがあります。

やりきれなさは、どこから来るか。多くの人が属する組織、または
共同体の行動の、本質を示しているからです。そして、ああした、
ひどい事件は、雪印や日本ハムの、一部の堕落と腐敗がもたらした
ものだ。自分たちの組織には、無関係だと思いたくなる。

最近、よく言われるコンプライアンス(compliance:遵法)という
概念があります。コンプライア� �スの原義は、積極的に法を遵守す
るというニュアンスではなく、会社の利益追求と外部規範たる法や
、社会正義との妥協という感じです。

会社の利益追求行動は、社会倫理や法とは反することがあるという
ことが暗黙に前提されていて、それで、法にも従属しなければなら
ないという受動的なニュアンスをもつのがコンプライアンスです。

▼共同体の二重規範

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
<共同体組織の二重規範>
「二重規範」は、徐々に示しますが、簡単に言えば、
(1)組織の不文律である内部規範が、
(2)外部規範(つまり法・正義・倫理)に優先するという共同体
組織の本質的な性格です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜� ��〜〜〜〜〜〜〜〜
詳細は↓


企業は何ですか

二重規範とは「生活共同体(ウチ)」になった組織(または集団)
の内部規範(または行動様式)が、「ソトである社会」の法・正義
・倫理に優先するという原理です。

組織は役割や序列がはっきりしたもの、集団は役割と序列が曖昧な
集まりという意味で用います。

雪印、日本ハム事件で共通に、(あるいは外務省問題、政党を含む
他の事例で)いつも典型的に「共同体の二重規範」で定義ができる
行動が繰り返される。

今回、再度「共同体の二重規範」のテーマを展開する理由は、いつ
かは遭遇する「ギリギリの選択」に当たって、われわれは、「個人
」としてどんな態度を取るべきかを考えるためです。雪印事件、日
本ハム事� ��は、特殊なものではないと判断します。

更に言えば、共同体の二重規範は、日本社会に特有なことではない。
例えば、CIAにも似たような匂いを感じます。宗教的共同体で
も同様です。軍隊でも類似している。世界の会社組織にも見られま
す。

もっと言えば、国家という共同体にもある。ナショナルインタレス
トの追求の前には、国際正義というべきものは、従属してしまう。

▼論理構造

雪印食品の元部長の証言で明らかになったことは、以下に示す構造
をもっています。

(1)価値観:会社(または組織)は、その外部社会では違法とさ
れること、または人間の共通倫理や常識に背くことを行っても、「
存続」すべきである。

(2)展開:法には違反するが、発覚しなければ利 益の機会がある。
上司に報告し了解を得て、外部に漏れない作戦として実行する。

(3)外部に漏れたときは「危機対応」で、役員が関係筋に手を回
し押さえる。

(4)万一、報道されたときは、会社ぐるみではなく「現場が、不
法行為を勝手に行った」と外部に発表する。

(5)現場の長の足切りを行うが、現場関係者の家族を含む生活は、
共同体である会社が、何らかの形で面倒をみるという期待もあっ
たかもしれない。

■2.会社と個人

雪印食品の元部長は、報道された証言から推察する限りでは「会社
が存続するなら」、「会社ぐるみ」のものではない、自分が勝手に
やったと証言することに決めていた。

「会社の解散」という事態を迎え、同時に、事件発覚後の上司の冷酷さを知り、証言する気持ちになったという。

元部長にとって「会社の存続」が至上価値とされ、会社という枠組
みがなくなってしまうと、会社を離れた、「個人」としての意識が
覚醒するという心理構造がある。

考えるべきは、雪印や日本ハムの当事者を非難するだけの、ワイド
ショー的な「社会正義」ではなく、自分をこの元部長のポジション
に置いたと仮定したとき、自分自身がどういう行動をとり得るかと
いう観点からのものでなければならないということです。その視点
をとらないと、ワイドショーと同じになって、考察する意味はない。

不法なことまでいかなくても、不法すれすれか、常識的な倫理また
は自分の(一種の)主義と、「会社の利益、または存続」のための
行動に乖 離、矛盾が生じることを経験されている人は多いはずです。

または、今後、判断を下す幹部になればなるほど、こうした事態に
直面する機会も増え、苦渋の選択に迫られる可能性が高い。

雪印や日本ハム、そして官僚組織は、自己利益を図る悪の集団では
ない。普通の人が、ギリギリの選択を迫られたときの行動が、典型
として現れているのです。

私も、違法ではないのですが、すれすれではないかと思うことを、
「会社のために、みんな(従業員)のために」と思って行ったこと
があります。組織体は、神経を麻痺させる部分があります。

その行動が間違っていたのかどうか、未だに、決めることはできま
せん。外部社会に対し害を及ぼすことではなかったので、心理的に
は救われますが・� ��・

(補注)中国社会でも同様です。日本の「家」に類似する、ただし
父系の「宗族」という縦の血縁共同体と、横では、強い同志結合が
みられる「幇(ほう)」という共同体がある。

いずれの共同体でも、社会の法や規範(外部規範)に、共同体の内
部規範が優先するという反社会的結合性がある。

■3.タテ社会の人間関係

日本の社会の人間関係を「場を強調し、ウチとソトの区分を強く意
識する」ものとして分析した古典的名著『タテ社会の人間関係』(
1967:中根千枝:講談社現代新書)があります。8月20日の新聞
記事を読み、先ほど、書架から探してきました。

書かれたのは35年前ですが、改めてとりだしても、新鮮なところ
がある。多くの人が『タテ社会の人間関係』を ベースに、日本の会
社論、または社会論を展開しているので、原典を読んだことがなく
ても、論の筋はご存知の方が多いでしょう。

<(株式会社は)株主のものではなく、(株をもたない)われわれ
(従業員)のものという論法がある>P31

つまり、近代法では会社の所有者である株主ですら、会社内部の従
業員から見れば、「ソト」になる。

<・・・「会社」は、個人が契約関係を結んでいる企業体であると
いう、自己にとって客体としての認識ではなく、私の、またはわれ
われの会社であって主体化して認識されている。そして多くの場合
それは自己の社会的存在のすべてであり、全生命のよりどころとい
うようなエモーショナルな要素が濃厚にはいっている>p31

<日本社会に根強く存� �する特殊な集団認識のあり方は、伝統的な
日本の社会の津々浦々まで浸透している「イエ」(家)の概念に明
確に代表される>p31

こうした伝統的な「家」が、「会社」に受け継がれていると仮定す
れば、会社でのタテの人間関係、外部社会との関係の意味を解くこ
とができます。

<重要なことは、この「家」集団内における人間関係というものが、
他のあらゆる人間関係に優先して、認識されているということで
ある>p32

■4.人間関係の崩壊

【裏返り】
元部長が、証言を決めるのは、まずは、生活共同体、つまり「家」
である雪印食品の、タテ社会の上司であった元専務が、「お前のお
かげでクビになるわ・・・」と冷酷な態度を示したように思えたこ
とが最初のきっかけにな� ��。

記事を読むだけでは、元専務は、一方的に悪者のように見えます。
事実は、おそらくそうではない。元専務もフツーの人でしょう。そ
の時、元部長に見えた側面だけを切り出せば、冷酷に見えたと解釈
すべきでしょう。

▼価値の崩壊

このことで、元部長にとって何より大切にすべきと考えてきた「タ
テ社会の人間関係」を、優先すべき価値として守る意識が切れます。

彼の想定は、法を犯したことが発覚し、重大な事態をむかえたとき
でも、「専務が盾になって抑えてくれる」という信頼関係だった。

会社の、タテの信義の絶対性に比べれば、ソトの法は、従属的なポ
ジションです。リーダシップ論で言うなら、Valueは社内のタテの人
間関係にあったのです。

▼等価交換


クレジットレポートには、チェックを行う

こうしたタテ社会の人間関係には、「会社の利益に貢献すれば」、
または「引き立ててくれる上司に忠誠を尽くせば」、身分的または
金銭的な「保証」を会社や上司がしてくれるという「等価交換の期
待」、そして「過去の忠誠に対して等価交換でポジションを与える」
原則がある。

【伝統ある名門企業】
こうした傾向は、シェアが安定していた伝統ある大企業ほど強い。
再就職の先である系列会社、関連会社が、どんどん拡大してきた理
由を構成しています。そこで、内部取引をベースに、本社部門を頂
点にするワンセット型のピラミッド組織を形成した。

官で、特殊法人を含め政府系機関、第3セクターまで� �拡大し、公
共事業の精緻な下請構造を作る理由と全く同じです。

【官僚組織】
こうした組織文化(コーポレート・カルチャー)は、外部からのモ
ニター(監視)が薄い官僚的組織ほど強くなる。外務省が外部から
の、わずかな人数の人材導入にすら、組織をあげて抵抗する理由は、
組織内部にでき上がっている派閥を含むタテ社会の構造と、序列が
崩れるからです。

タテ社会の構造が崩れれば、過去につみあげてきた、人間関係にお
ける自分の資産が、ソトの目からは、無価値なものになるからです。

入省年次での序列が、未だに深く根強い組織が、官です。官には外
部との競争がない。つまり外部からのモニターがないのと同じです。
唯一の外部は、マスコミでしょう。ところが記者クラ ブ存在は、
ソトの目を内部化していた。

【中小・新興企業】
弱い立場で競争に晒されることが多い中小企業、または、全員の社
歴が浅い新興企業では、無形の「会社資本」とも言える、タテの強
い絆(きずな)にもなる紐帯は薄くなる。

人の入れ替わりが激しく、タテの関係ができる時間がないことと、
非効率な人材を抱える余裕がないことが理由です。

▼信義の裏切り

牛肉の産地偽装が外部に発覚し、「お前のおかげでクビになるわ・
・・」という態度が見えたとき、元部長にとって、不法行為の実行
相談をするまでに信頼していた元専務に「裏切られた」という心理
になる。

そして、裏切られたという心境が、「法廷で、証言しよう」という
社会的な正義に傾斜する最初のき� �かけになる。

社会の法を超える信義で成立していた「人間関係が切れた」ことを
契機に発生した、個人的な恨みからもくる報復の意識がこもってい
ます。イエの内部の「身内」と思えていた人が、最も手ごわい外敵
になるのは、こうした瞬間です。

<個人と個人との間に理性的な、あるいは抽象的なコントラクト(
契約)の関係の設定が困難であるということは、人間関係が、極め
てパーソナルな、直接的な人と人との関係によって設定されるため
ということができる>p167

【信義】
おそらくこの元部長と専務の間には、元部長が一方的に思っていた
かもしれなくとも、信義と言えるような関係があった。

外部の法や社会規範を超越する、内部の信義の関係があったから、
「不法行為」� ��あらかじめ相談した。お互いの身内意識、共同体意
識よりもっと強い信義の関係がないと、「他には絶対に漏らすこと
ができない作戦」の相談はできない。

▼現代社会の根にある任侠的世界

人間関係の信義が、社会の法を超越するほど強い関係に至るのは、
一家と、親分・子分、義兄弟の信義を重んじる任侠の世界に見られ
ます。任侠の世界は、しばしば理想化して描かれることもある。新
興宗教の世界も、自民党の派閥も似ています。

<ある保護施設の園長の言によると、ヤクザの世界を一度味わった
子供が、何回連れもどしてももどってしまうのは、ヤクザの世界で
は、その子にとって、その子にとって、保護施設や里親などからは
えられないような理解と愛を受けるからであるという。� ��分、子分
関係の強さ、エモーショナルな要素は、弱いものにとって安住の世
界を作っている>p168

鈴木宗男にとって、親分は野中広務です。世論やマスコミに叩かれ
ても、強気で動じない。しかし野中広務の一言で、彼は離党し、落
涙する。

鈴木宗男が重んじたのは、野中広務との信義の関係です。同様の形
式で、自分が親分になることができる相手に対しては、服従と信義
を求めた。「親分」とは子分の生殺与奪の権を握り、忠誠に対して
は報酬を与える人です。封建領主が、武士の勲功に対し、領土を割
譲し、武勲としたことと同じ構造。

こうした忠誠と信義の関係に通暁していた政治家が、田中角栄です。
角栄は、行動の根を抑える天才だった。

高級官僚は、自分の才と知識によ ってポジションを得ていると考え
る傾向が強い。縦社会の人間関係の重要性を知ってはいても、機能
論でそれを無視する風を装う。そこに、つけいられる間隙が生じる。

強い紐帯がある任侠的世界で、嫌悪されるのが、幹部の自己保身で
あり、称揚されるのが自己犠牲です。任侠的世界のリーダーは、部
下のために自己犠牲的でなければならない。その自己犠牲と引き換
えに、部下の忠誠を獲得する。

雪印食品の元部長が、上司である専務の自己保身を感じたとき、証
言の動機が構成された。

■5.ウチとソト

元部長は(自分が犠牲になって)、<「そういうことで会社が残る
のであれば、やむをえない」、(現場が勝手にやったこととして)
公表された結果についてそう思い、役員らが� �任を問われないこと
について「世の中そんなものかもしれない」と受け入れた。納得は
しなかったが「会社に愛着があった」>と言う。

▼ウチ

元専務との縦の信義の関係は切れた。しかし、彼はまだ、孤立した
「アパシー(虚無)」の心理にはならない。人間関係を包んでいた
会社という「ウチ」が残っていた。

まだ、彼の内部では、外部世界との間には、ウチである会社があっ
て、ソトと対立していた。

<エモーショナルな全面的な個々人の集団参加を基盤として強調さ
れ、また強要される集団の一体感というものは、それ自体閉ざされ
た世界を形成し、強い孤立性を結果するものである。ここに、必然
的に家風とか社風とかいうものが形成される>p46

肯定的に捉えれば、情緒的な 面でも結びつく強い絆の集団意識は、
外部を敵とする強い組織を生む。

しかし、その組織が社会性をもたなければならないくらい肥大した
とき、あるいは業界のリーダーとなったとき、別の表現では社会を
覆ったとき、社会と対立するものになる。

<一体感によって養成される枠の強固さ、集団の孤立性は、同時に、
枠の外にある同一資格者との間に溝をつくり、一方、枠の中にあ
る資格の異なる者の間の距離をちぢめ資格による同類集団の機能を
麻痺させる役割を果たす。すなわち、こうした社会組織にあっては、
社会に安定があればあるほど、同類意識は希薄となり、一方「ウ
チの者」「ヨソ者」の差別意識が正面に打ち出されてくる>p46


弧弾力性は何を意味するのか

ここが、必要な労働の流動性を阻害する根底の理由になっている。
経済全体のパイが拡大しているときまでは、こうした閉鎖性が問題
を大きくすることはなかった。業界序列が守られ、学会、官界、業
界を含むタテ系列が機能していた。暗黙に残った、巨大な徒弟制度
と言ってもいい。

今、日本の社会と(特にタテ支配が強い大企業の)次への展開を阻
害しているものが、こうした「場」の支配の強固さでしょう。

<場による集団帰属というものは、その場に入ったからすぐできる
というものではない。安定したネットワークをそこの人々と結び、
個人の位置づけが定着するまでは、どうしても相当の時間を要し、
そこで次第に はぐくまれた相互の人間関係は、いったんでき上がる
と強い定着度を示すのである>p57

ヨソの組織に移ると、長期間、「浮く」感じを否めない。機能的な
「コミットメント」より、不文律の人間関係がある。こうしたこと
の克服は、お互いが「情緒的な場」に埋没するのではなく、それを
分析的に「知る」ことでしょう。人は「知」によってのみ、克服が
できる。「知」は人にとって第2の本能になり得るからです。

▼世の中とは・・・

元部長は、(当人にとっては理不尽に)タテの人間関係が切れても
、会社が存続するなら、役員が責任逃れをするのも「会社の存続の
ため」であれば、「世の中そんなものかもしれない」と受け入れる

この時点では、元専務に個人的な恨みはもっても� �証言をしようと
いう決断には至っていない。

【価値の序列】
彼の価値観で、重要な順に言えば、
{ウチ=[共同体たる会社]>[タテの人間関係]>[個人]>}−
{[ソトの世界]}だった。

タテの人間関係が消えても、会社が残れば、自分だけはソトの社会
に放り出されて犯罪者になるが、「世の中そんなものかもしれない
」と受け入れていた。

このあたりの心的構造までくれば、米国人の意識とは違うようです。
会社が共同体であるという意識には共通性がある。しかし、自分
だけが犯罪者になって、会社を救うことで、「世の中そんなものか
もしれない」と受け入れる心的構造は、一般に薄いように思えます。

むしろ、法廷での真実の証言と引換えに、自己を救うという意識が< br/>ある。証言法にも、これを保証する制度がある。

元部長は、会社がある間は、自分が罪を引き受けるということが「
世の中だ」と考える。

彼は余裕をもって、冷静に思考しているのではない。県警からの激
しい訊問を受けながら、意識の混乱と心理的錯乱、ギリギリの選択
で考えている。彼の意識では、ソトの社会規範を裏切っても、ウチ
を守るためだという自己正当化があるため、犯罪の意識は薄い。

・(彼の証言では)同業者にも同じことを動きがあった。
・会社の過剰在庫を、利益に転じる機会である。
・元は会社や自分たちが払った税であって、政治的に準備された

買取り資金総額200億円はだれのものでもなく、救済制度を利用
するだけだという心理がある。

雪印食品が� �4月限りで解散すると聞いたとき、彼の、最後の心理
的な防波堤が崩れる。

「このままではすべてが終わってしまう」と思い「役員の関与」に
ついての証言を始める。

そして「家族をも罪人の家族にしてしまった」と語り、「情けない、
申し訳ない」と繰り返す。

元部長が、価値を置いていた、会社とタテの人間関係が一瞬のうち
に崩壊したとき、それまではソトと思っていた社会の法や規範の中
に一人放り出され孤立無援になる。

そうして、最後に残った共同体である家族に対し、「家族をも罪人
にしてしまった、情けない、申し訳ない」と繰り返す。

犯罪は、犯罪を犯した時点で犯罪と意識されるのではない。マスコ
ミに追われ、発覚し捕らえられ調書を読まれ、法廷に立ち、証言� �
るとき「犯罪」になる。

■6.行きついて急展開

組織体が、長期で安定し、ピラミッド構造の裾野を拡大していくこ
とができた時期、およそ1980年代まではタテの人間関係を保証
する会社組織は、拡大することができていた。

封建領主が、国取り物語で支配する領土を広げるとき、忠誠を尽く
し、武勲をあげた幹部は、領地を分割して与えられた。戦後は物理
的な領土の拡大はなかったが、支社の設立、出店、商圏の拡大、部
門の拡大が、つまりは、GDPの拡大が、それらを保証してきた。
西欧と米国に比べれば、失業率は驚異的に低かった。

刀の代わりに、ツールは情報機器に代わりつつあったが、心的構造
は、国取り物語となんら変わらない。企業間の競争は、「戦略」と
� �われた。

目標に向かった経営資源(人材・資本・技術・組織)の最適配分と
設計を意味する経営学的Strategyは、国取り物語の方法によるシェ
ア拡大の方策と同義になっていた。

90年代になった。花火のようなバブルを経た。突如、全体のパイ
の拡大がなくなった。リストラと、企業合併、M&A、希望退職、
賃金の停滞、切下げ、つまり西欧の1970年代が20年遅れで、
米国の1980年代が10年遅れでこの国に押し寄せてきた・・・
ということすら回顧的に思えるほど、土地資本で確固たるものに見
えていた企業が流動的になった。1000兆円の土地含み資本の消
滅は、安定を許容しない。

株価は短期で10倍になることもあるが、つかの間の時価総額を与
え、ビジネス雑誌に� ��場し、そして1年後、2年後には消える。
資本の性質が変わった。80%の下落、90%の下落は、西欧でも
米国でもアジアでも珍しくはない。2000年から、世界の時価総
額は40%下落した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
各国主要株式指標          ピークからの下落
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
オーストラリア(All Ordinaries)    −11.8%
オーストリア(ATX)           −34.3%
ベルギー(Be120)            −38.7%
英国(FTSE100)             −38.7%
カナダ(Toronto Composite)       −42.0%
デンマーク(KBX)            −39.1%
フランス(SFB250)             −47.7%
    (CAA40)             −50.7%
ドイツ(XetraDAX)            −� �4.1%
イタリア(BCI)                          −46.2%
日本(日経225)           −74.6%
  (Topix)              −66.5%
オランダ(AEX)             −48.2%
スペイン(Madrid SE)           −42.8%
スウェーデン(AffarsvardenGen)      −60.6%
スイス(Swiss Market)             −38.2%
米国(ダウ)               −25.5%
  (S&P500)               −40.3%
  (Nasdaq)               −73.7%
ヨーロッパ(FTSE Eurotop300)            −43.7%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
世界債� �市場                −2.0%         
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
       (02年6月末):The economist:02.8.03号

80年代までは、就職して自分が仕事をする約30年の期間より、
企業の寿命のほうが短いだろうと想定していた人はいなかった。自
発的な離職や転職くらいは、視野にあったが、不文律であったタテ
社会に忠誠を尽くしてさえいれば、能力面や成果面で、排斥される
ことはなかった。

今、生涯就職を前提としている企業が、いくつあるだろうか。
社員の意識で、生涯就職を前提としている人は、官においてすら減
少しつつある。90年代は、景気対策の名目で官とその周辺のみが
拡大してきた。

今後は、官� �周辺から、縮小にはいることは確定している。それに
よって、官が吸収してきた資本によるクラウディング・アウトの時
代が終わり、民間は活力を回復する。(筆者が関係している企業で
も、まだ、マスコミには登場しない21世紀型の急成長企業が誕生
しつつあります)

確かに、企業は5年後すら保証できない。就職さえできれば、保証
されるように見えていた安定したライフ・プランは、とうの昔に崩
れている。

まとめれば、強固なヒエラルキーを構成していた会社組織は、今、
等しく、独立採算の短期プロジェクトチームの離合集散を、連続的
に繰り返すグループとしての枠組みに過ぎなくなっている。ゆっく
りした変化しかできなかった、階層社会が根強く残る西欧に比べれ
ば、驚� �的なダイナミズムは、この国には残っている。

今激しく変わりつつあるのは、中国を筆頭に、アジア、そして日本
でしょう。

そうした渦中で、過去の名門企業で、業界のトップ企業で、あるい
はブランド企業で、時流を錯誤したタテ社会の、とりわけ幹部層に
残る旧時代の共同体の残滓(ざんし)が、音をたてしかも瞬間に崩
れようとしています。

現象的には、大きな車輪が、回転しています。問題は、心理構造で
す。心理構造の変化には時間がかかる。

35年前、中根千枝は書いた。
<・・・日本においては、どんなに一定の主義・思想を錦の御旗と
している集団でも、その集団の生命は「その主義(思想)自体に個
人が忠実である」ことではなく、むしろお互いの人間関係自体にあ
ると言えよう>P172

<コントラクト精神とは異質な、恒久的の設定される単一の「タテ」
の人間関係というものが根強く潜在していることを知るのである>
p166

文中の主義・思想をVision(幻視または高い目標)に、コントラク
トをコミットメントに置き換えれば、当世風でしょうか。

雪印事件の風景は、35年前の日本社会と会社組織の分析が、その
まま適用できる内容をそろえています。35年という期間では、働
く1世代が、そっくり入れ替わる。

私には、日本社会の特質であるエモーショナルな結びつきを、仲間
意識として含みながら、それに埋没しない、あらたなリーダシップ
とチームワークの組織体が、日本のみならず世界で、生まれつつあ
ると感じられるのです。情緒的な結び� �きは、美しい。

AでなければBという2項対立のみが世界ではない。[A+B]の
合一がある。例えばウォルマートという組織、そしてホームデポも、
根底でエモーショナルな結びつきを創業精神とし守り、しかし、
ビジョナリーで、社会性があり、激しい成果主義を透徹する。ウォ
ルマートはびっくりするくらい東洋的精神です。

月一度、ある急成長企業の会議に出席しています。売上げは昨年の
3倍。何があるか。笑いです。そしてユーモア。だれも相手の欠点
を責めない。部下の失敗を、社長は「今のうちに経験しておいてよ
かったな、次は気をつけろ」と諭(さと)す。

役員以外は、全員役職がない。組織に壁がない。自発的ハードワー
クをしている。時に徹夜でしょうか。目がくぼ� �でいます。全員、
食い入るように話を聞く。即座に実行する。実行プロセスで、走り
ながら修正する。書類は整っていない。全員、整える時間がない。

当然、企業拡大とともに「技術化・専門化・組織化」が必要になる。
しかし、部下の失敗を「今のうちに経験しておいてよかったな、
次は気をつけろ」という精神が続く限り、この企業はおおらかに伸
びる。真のリーダーは、組織を変え、そして市場を変える。そうし
た人たちがいる。

株価の急落は、急騰があったことの裏の現象です。ハイスピードで、
事業を作ることができることも意味している。ベンチャーという概
念すら古い。ベンチャーであることが条件になったからです。

3年も、同じであれば、世間は必要としなくなるでしょう� �サム・
ウォトンが言ったように、大きなビジョンをもって、顧客を信じ、
小さく、具体的に、現場から、一人の顧客から考えること。世界の
だれも、最初から大きく考えることはできない。自戒をこめた言葉
です。

See you soon from NY.

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